師範の呟き【服】<トキト>のスーツ

アタシのクローゼットには<トキト>のテーラードが山のようにあります。というのも、はじめて展示会を覗いたとき、長年求めていた理想的なスタイルがそこに拡がっていたからです。紹介する一着はその手始めとなったもので、買ったのは確か2001年だっと思うから、もう20年経過しているんですね。 

素材は分厚いウールフランネルで、袖を通すとかなり重量を感じます。最新のイタリア製のように衝撃的な軽さに慣れたアタシには正直、着にくいと思いましたが、実はここからがポイントです。この重量感だからこそセットアップのハギーパンツをことのほか美しく魅せてくれるのですよ。

拙書でも書きましたが、パンツのシルエットは肩を始点に、重力で下へ落とすと理想的なシルエットを描きます。このとき裾にある程度の重さがあるとより効果的ですよね。そう考えると、このデザインを完成させるためにはこの分厚いウールフランネルしかないという訳なんですね。

現在、吉田十紀人氏はサンヨーソーイングのカプセルコレクションを手がけていますが、ここで仰られているのが、氏のデザイン哲学。21世紀のヴィンテージになりうる服を作る。このスーツもその域に達してきましたね。