師範の呟き【服】<ロロ ピアーナ>のビキューナセーター

 

ロロピアーナの前代表、故セルジオ・ロロピアーナ氏は世界屈指のウェルドレッサーとして知られる存在でした。初めてお会いしたのは、2000年代の初めごろで、場所はアメリカのパームビーチ。ロロピアーナはポロ競技のチームを持っていて、当時同チームは全米チャンピオンの座にあって、ディフェンディングチャンピオンとして迎える大会を世界のファッション媒体の代表者に公開する、いわばお披露目会が開かれたのです。

なんと名誉なことに日本代表はこのアタシ! 喜び勇んで…とはいえ、お相手は世界屈指のウェルドレッサーですから、持ってゆくワードローブは練りに練って、昼はシアサッカーのスーツ、夜は綿シルクのスリーピースを鞄に詰めて渡米したのです。

二日目の朝食後、ご挨拶すると氏は「貴方のドレスはとてもエレガントで素晴らしい!」とお褒めに預かりホッ! 日本代表の面子を保つことができたようです。

さてそのセルジオ氏はジャケパン姿で、インナーにイタリアンカラーのシャツ、セーターを片掛けした粋なスタイルでありました。オーラがもの凄くて眩ゆいばかりでしたが、刮目するとジャケットは恐らく「カラチェニ」製で、気になったのがセーターの素材。軽くソフトで輝きのある佇まいは、まさか…? そう、これぞロロピアーナ社謹製ビキューナだったのです。しかし、希少な超高級品をサラリと肩にかける仕草が似合うのは、後にも先にもこの方くらいでしょう。

そんなロロピアーナのビキューナのセーターが、15年ほど前、突然手に入りました。所謂B級品のデットストックで、サイズが大きかったので、なかなか引き取り手がいなかったというのがストーリーですが、普通に買うと50万は下らない品物ですから、とてもいい買い物をさせていただきました。さて、恐る恐る袖を通してみると吃驚! 肌に優しく吸い付くようにフィットするから服を着ているという感覚ではないのです。そう誤解を恐れず例えると、獣毛製の肌着を纏った感じ。正に唸らずにはいられない極上モノなのです。